獣道を、ただ登る

……薄暗い道を


何もわからない私には
苦痛でしかなかった時間。


花那は、私の手を離さず
でも
会話もなく前を向き

足取りも気持ちも重い私を
どんどん導いていきました。


小さなお社?が見えた頃

『しーちゃん、お疲れ様♡
ごめんね、でも
付き合ってくれて、ありがとう。』

またもや、不敵な笑みに
空を仰ぐしかなかった私。


お社は、とても古く
とうやら…お社自体が
何かしらの神社仏閣の裏手の
祠らしいことだけは

空気でわかりました。


煤汚れた、お社の扉を開けると
砂っぽい、湿っぽい
なんとも言えない空気で

でも、森と一体化したような
不思議な空間でした。


海坊主が発した言葉は

『裸足になって、中に入りなさい。』



………
床は
ふー…っと息を吹けば
砂埃の舞い上がりそうな
板の間


さすがの花那も

『……ここ、入って
大丈夫なんですか?』

と、海坊主に尋ねていました。


つまり、これから起こることは
知らされていたけれど

ここに来ること自体は
初めてだったようです。


水筒の水を飲ませてもらってから
2人で中に入り


海坊主は


外から扉を閉めました。


木材で柵になってる扉は
壊そうと思えば
簡単に壊れそうだけど……


真ん中に座った花那が
『しーちゃん、私の言う通りにして。
私と背中合わせで、座禅を組んで。

先生がまた、扉を開くまで
私たちは
外には出られないから。

このまま、瞑想するの。
森の空気を、ここの気配を
感覚だけで察知して。』


命令と思えば、ムカつきもするけど

命令には聞こえないのが
花那の人徳。


海坊主が戻るまでの我慢……と


言われた通りに
背中合わせに座禅を組んで
後頭部を付けた状態


……経文を唱える花那
……黙って聞く私


閉じてる目を、時々開けては
外を眺めると



柵越しに見える景色は
日の入りとともに

段々と暗くなっていくのが
わかりました。